IE9ピン留め

それぞれの佳き日

3年前、適齢期をとっくに過ぎた私は13歳年下の夫と結婚することになった。

年若い夫と並んで花嫁衣装を着ることは、正直躊躇したし、お嫁さんに憧れる気持ちも遥か昔にどこかに置いてきてしまっていた。

夫は極度の自意識過剰の照れ屋さんだし、お互い特に相談することもなく自然と挙式、披露宴などはしない方向で落ち着いた。

それでもやはり何か形を残すことも考えて、二人きりの挙式や、写真だけでも撮ろうかと調べたりもした。けれど、ささやかでもやるとなればそれなりに納得するものにしたかったし、これといってしっくりくるものもなかったから、面倒になったり、そこまでしてやることが無駄なことのように思ってしまった。

夫の本籍地である新宿区役所に婚姻届を提出して、そのあと高層ビルで夜景を見ながら食事をして、私達は夫婦になった。


ずっと年下の妹のような存在だった女の子が結婚した。
彼女らしい恋愛を実らせて、その時々話を聞いていたから、自分のことのように嬉しい出来事だった。

出雲大社でのお式、その後行われた暖かい披露宴の話を聞いて、初めて結婚式をいいものだなあと思う。

そして心のどこかで後悔のような気持ちが湧いた。

形にこだわることはないと、それは今でも変わらない。
でもこの後ろめたい感情は何だろう……。

それはこの3年の結婚生活を経たからこそ芽生えたものかもしれない。
結婚して背負った様々な重い責任や夫婦であることの意味。
毎日の積み重ねの中、結婚というものの良いところも大変なところも身に染みて感じてきた。

そんな二人を支えてきてくれた家族や友人達に葉書一枚だけでなく、晴れやかな形をもって報告するべきだったのではないかという思いが湧く。
何もしなかった私達を気遣って、それぞれに小さな会を開いてくれた家族や友人達への感謝の気持ちが私の胸をちくっと刺すのだ。

そして最初私達の結婚を少し反対していた義母が、ある時ふと漏らしたひとこと。

「いい人にお嫁に来てもらった。でも、もう少し早く来てほしかった。」

この正直な、そしてまっすぐな言葉を聞いた時と同じように、花嫁衣裳が似合う頃、新しい命を宿せる年齢で普通に結婚しなかった自分への、言葉では表せない懺悔のような思いが、彼女の白無垢姿をこんなにもまぶしく感じさせたんだろうと思う。

でも、これが私の、私達の、結婚の形だったのだ。
夫婦の数と同じだけ、それぞれの佳き日がある。
その佳き日は様々な彩りで少しずつ少しずつ形を変えていく。


少し後悔できた私はしあわせ。

そうなんだ。

あの頃、実は二人の未来が不安だったから、みんなにお披露目するのが怖かったのかもしれない。

今も暴雨風並みの波風が立つこともあるけれど、みんなに「おめでとう!」と光の中でお祝いしてもらいたかったと、後悔の気持ちが芽生えたことは、案外うまくいっている証拠なのだろうか……。


そう言えば、思い出したことがある。

結婚が決まってすぐの私のお誕生日に二人で温泉に行った。
その時何気なく立ち寄った神社に参拝した時のこと。

誰もいないその境内に、結婚式に流れるような雅楽の音が流れ始めた。
センサーが感知すると鳴るようになっていたらしい。

結婚式みたいだなーと思いながら、二人並んで手を合わせていた。

見上げた空は雲一つない青空だった。

その日泊まった旅館では、仲居さんに初めて「奥様」と呼ばれた。
それまで何度も二人で泊まりに行っていたけれど、そう呼ばれたのは初めてだったから、新婚旅行のような気がした。



# by xkingyox | 2011-12-17 17:51 | モノオモウ...

ホスピスボランティア

震災後、市の社会福祉協議会のHPをチェックしていた時、ホスピスボランティアの説明会がある事を知った。
原発事故が起こって、真実を知り、自己責任を感じながら私にできることを考えた。
反原発デモに参加したこともそのひとつ。
そしてふとこの説明会のことを思い出す。
ブラックジョークではない。
おそらく10年後、日本には今以上に癌患者が確実に増えるだろう。
その時もしかしたら役に立つかもしれない。
そんな想いから、先月話を聞きに行った。

最初想像していたホスピス病棟でのボランティアとは違って、このグループが活動していたのは「在宅ホスピス」というものであった。
末期癌でホスピス、老人施設などに受け入れられなかった人達は、みな自宅に帰され、通院しながら病気と向き合っていく。
そして病状が悪化して救急車を呼んで、病院で最期を迎える。
この流れの中で、いかに非人間的な対応をされるかなど、初めて知ることばかり。
往診ではなく自宅で定期的に訪問診療してもらい最期を迎えるための医療機関=在宅ホスピスは、国の政策で推進を唱えられてはいるけれど、実際はまだまだ進んでいないらしい。

説明会を開いた代表者は、病院でのボランティアが個人情報機密の問題で思うように出来なくなった現状に疑問を感じ、今は在宅ホスピスでの活動に方向を変えたと話されていたが、今後は家族による看取りが難しい人達にとって重要な役割を担うようになるのかもしれない。

説明会には初期の頃から在宅緩和ケアに努められ、「立川在宅ケアクリニック」で診療を行う井尾和雄先生が来られていて、興味深い話が沢山あった。
その中で末期でも「人間の余命はわからない」と言い続ける医者に対して、井尾先生は「見放しなさい、恨まれなさい」と言う。
何の治療も施すことが出来ない患者に対して、残された時間を有意義に使うために、告げるべきだ。そして無駄な通院はやめ、在宅医療でなるべく痛みをとることに努め、無理やり生かす点滴はやめ、最後の一口まで自分の口で飲んだり食べたりして、それができなくなったら自然に体は衰弱して眠るように亡くなっていくというのが、自然な尊厳ある死だとおっしゃっていた。
最後に病院に運ばれて、管を通され、無理な点滴で苦しみながらの死ではいけないと。

助けることは学ぶが、助からない死への医療を学ばない日本。

もう行き場のない福島も同じだなと思った。


福島の現状(2011年6月16日(木)、テレビ朝日のモーニングバードで放送)

# by xkingyox | 2011-06-17 15:16 | 日々

でも、デモ。

昨日は芝公園~東電本社前と代々木~渋谷という二つのコースでデモがそれぞれ行われた。
私はふたつの主催者を見て、芝公園の方に出かけた。

どっちに行ったかで、私の初めてのデモ参加の感想は大きく違っただろうと思う。

まず集合場所の芝公園に着いてたくさんの市民団体が掲げるのぼり旗とビラを配る人達に、正直気持ちが暗くなった。
今回は静かにひっそりと一人で参加することに決めていたので心細さもあったとは言え、その情景は私がこれまで抱いていたデモに対するネガティブなイメージそのものだった。

それでも少しずつ周りの風景が目に入ってくると、私のような「無所属」な人達もたくさん参加している。

300人位の固まりで動くというアナウンスがあり、それぞれ同じ団体の人達が先頭を切り、後ろに人が続いて行く。
私はきょろきょろしながら先ほどからにぎやかに音楽を奏でて歌い踊る、七色のもじゃもじゃカツラをかぶったり、変な扮装しているグループのそばで出発を待った。

これまでデモで笛や太鼓でどんちゃん騒ぎなんてする必要ないんじゃないかと思っていた私だったけれど、こんな重い空気の中、それがどんなに人を活気づかせ勇気づけるのかを初めて知った。
原発をとめたいという想いだけでじゅうぶん。
私のような無所属派はそこに自然に集まっていった。
最後から2~3番目に出発した私達の後ろでは、どこかの大学の団体の人達が整然とシュプレコールを繰り返していた。

公道に出ると、通りに沿って警察官がずらりと並んで交通整理をしている。
集団でのデモ行進は違法なんだけど、それは警備と言うより協力してもらっているようで、何となく複雑な気持ち。
実際青信号が赤に変わる前に誘導されている状態はこちらに落ち度があるわけで、怒るわけでもなく職務を遂行する警察官を見ていると、私達何しているの?という思いが沸いてくるのだ。
芝公園を出て新橋から東電本社前までの道のりの前半は、車の通りも少ないしどちらかというとのんびりと過ぎて行ったと思う。
警察官の人達も穏やかで、これは私の思い込みかもしれないけれど、デモをする私達に少なからず共感を持っている優しい眼差しの人が多いような気がした。
こちらも静かに行進しているからでもあるのは、その後判るのだけれど……。

ひとつの車線を占領して歩くデモ隊に遭遇している、ドライバーの人達や普通に街を歩く人達も、概ね好意的だった。
迷惑そうな視線を感じたり、批判的な人を見ることはほとんどなかった。
手を振る人、拍手する人、「ガンバレ!ガンバレ!」と声をかけるおじいさん、中には途中でデモに加わる人もいた。
けれど残念なことに、多くは傍観者であったことも付け加えておこう。

そんな空気がだんだん騒がしくなってくる。
少し進むとしばらく動きが止まる。
東電本社前に近づくと、緊張したざわめきが流れる。
これはあとで判ったんだけれど、前の方のグループの人達と警察官との間で衝突のようなものがあったらしい。
それが後ろの方にも波及して「原発反対!」と繰り返し声を上げる人達が増え、警察官が喋る大きな声とがぶつかって、収拾がつかない。
私はその喧騒の中、「うるさいな」と思っていた、両方に。
そしてどんどん遠くに心が離れていった。

確かに私だってあんなに多くの警察官に囲まれたことはなかったし、そんな一般日常とはかけ離れた空間で言われなき罪で責めたてられる気分になるのも判らなくはない。
平常心でいられなくなる。

でも。
私の気持ちはどんどん萎えていった。
こんなことで何かを訴えることが出来るんだろうか?
暴力の匂いが少しでもしてしまうと、たいがいの人間はそれを受け入れる事ができない。
きれいな音楽が、美しい歌声が、ここで静寂に流れたらいいのに。
サントリーのCMじゃないけど、威圧的な警官達の前でみんなで「上を向いて歩こう」をハミングしたらいいのに。
その方がずっと想いは伝わるんじゃないだろうか。
出発の景気づけのにぎやかな音楽も、この異様な光景の中ではおふざけが過ぎるようにしか聞こえない。
東電の窓からブラインドを少しだけ開けて下を覗きこんでいる人を眺めながら、そんなことを考えていた。

デモとひとくちに言っても、その手法、参加する人々の個性によってその様相はかなり違って来るんだと思う。
代々木の方がどうだったか調べてみたけれど、こっちの方が私の皮膚感には近かったかもしれない。

でも。
頑なに強く訴えるデモも必要なんだとも思う。
敵は私達が想像する以上に手強い。
権力って、本当に恐ろしく大きなものなんだと実感したから。

ただ私はやっぱり極力冷静に、が原則だと考える。
だから街の中で大きな声で何を言っているのか判らなくなるようなシュプレコールはしたくない。
反面花を手にして、ラブ&ピースみたいな楽しげな行進も、被爆した方達や地方に原発を押し付けていたことを思うとどうなんだろうと思う。
今はそういう時期ではない気もする。

色んな人が同じ想いをもつことが大事だから、共存していく形は必要だ。
日本人らしい、日本人にしかできないデモ。
それが出来たとき、何かが変わるような気がする。
それが何なのか、私なりに探していこうと思う。

今度は高円寺で行われたようなデモに参加してみたい。
前回と違って、次はかなりの数の警官が動員されるかもしれない。
若者達が警官に煽られて、我を忘れてしまわないことを祈りつつ……。

でも、デモの話。
長くて、ごめん。


(4月27日加筆、修正)

# by xkingyox | 2011-04-25 16:17 | 日々

一日一縁

小説家の岩井志麻子さんが、こんな事を話されていた。
彼女の評価はそれぞれあると思うけど、それは別にしても良い事を聞いたなと思った。

「一度に高額の義援金寄付は出来ない代わりに、コンビニなど街で募金箱を見かけるたびに1日合計3千円を目安に募金を続けている。」

私も震災後、出来る範囲で募金したけれど、こんなふうに毎日、または目に付くたびに、小額でも募金を続ければ私達庶民だって一ヶ月、半年、一年と続けばそれなりの金額になるんだなと思った。

一日百円、財布の中の小銭を募金し続ける。

一日一善、一日一縁。

被災地の方々に繋がる方法は沢山あるような気がする。
支援、復興は長期に渡るものなのだから、続けることも大切だ。

いろいろ教えられる毎日だ。




# by xkingyox | 2011-04-06 14:15 | 日々

「個性の優れる方面に於て、各々止むなき表現をなせ」

昨日の日記でご紹介した小出裕章さんの2007年の講演で、最後にお話になった部分を抜粋させて頂きます。



宮澤賢治は、「世界がぜんたい幸福にならないうちは 個人の幸福はありえない」と記しました。私は「世界ぜんたい」とは、人間のみを指すのではないと思います。人間を含めたこの世界全体が幸せになることを、賢治さんは願っていたはずです。またそう考えなければ、この地球という星を守ることはできないところにまで私たちは追い詰められてしまったと思います。

賢治さんは続けてこう記しています。「個性の優れる方面に於て、各々止むなき表現をなせ」。

 たまたま原子力の世界に入ってしまった私は、なんとか原発を止めるために自分が持っている力を出し尽くします。みなさんも、それぞれが取り組んでいる場所で、それぞれの力を発揮してください。

 私たち誰もがそれぞれに「止むなき表現」をする場所があるはずです。



私はこれを読んで大泣きしてしまいました。
原発反対ではなく、原発を止めようという想い。
胸に響きます。

全文はこちらです。

# by xkingyox | 2011-04-04 09:13 | 日々
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